未来へ向けて☆★☆★ |
それは私セイラ・グリーンが、17才の誕生日を一ヶ月後にひかえたごく平凡な日に、突然おこった大事件……。 ---事のおこりは、ある一通の手紙だった---- “コン、コン、コン” 「あら、何の音?」 うららかな昼下がり、いつものように私とお母さんは、リビングで、お茶とパイをともに、楽しい時間を過ごしていた。 そのリビングの窓を、何かがしきりにたたくような音が響く。 「……あっ、お母さん、きっとルイーズよ。お兄ちゃんの手紙を届けにきたんだわ!」 私はとっさに気付いて、窓に目をむけてみた。 思ったとおり、真っ白な鳥が窓ガラスをくちばしでつついている。ルイーズは、ヒナのときから私の四つ年上のお兄ちゃん---ナイトハルト・グリーン---が育ててきた伝書バトで、旅にでているお兄ちゃんからの手紙を週に一度ほど我が家に届けてくれるんだけれど……。あれ?何だか様子がおかしい……?そういえばいつもなら裏口から勝手に入ってくるのに、なんでわざわざこんなところから入ろうとするのかしら。まるで私たちに少しでも早く知らせたいことがあるみたい……。 お母さんも、いつもとは少し様子が違うことを感じたようで、 「とにかく、セイラ、開けてあげなさい。ルイーズはパイを勝手につついて食べたりはしないでしょう」 と、少し早口で私に言った。 窓のカギをあける時間は、ほんのちょっとのことだったけど、その間あらゆる考えが私の脳裏をかすめていった。 もしかしてお兄ちゃんに何かあったのかしら。 それとも単にルイーズの具合が悪いだけかな…… それとも…… 何だか悪い予感にのまれかけて、私はあわてて頭をふった。 ああ、いけない、悪いほうに考えては。悪魔はどんな小さな不安にもつけこんで、人間にとりつくっていうもの……。あ、そうよ、もしかしたらあの人が見つかったのかもしれない! 私はそこでお兄ちゃんの旅の目的を思い出した。それは消えてしまった彼を探しだすこと……。その人はお兄ちゃんの親友で、私もお兄ちゃんと同じくらい大好きだった。それがある日、村から出かけたまま帰ってこなくて、それっきり。 半年たっても帰ってこない彼を心配して、お兄ちゃんは私にこう言った。 “セイラ、俺、あいつ……フリッツを探しにいってくるよ。” もちろん私もお父さん(ちなみにうれない学者)もお母さんも、みんな反対した。だってお兄ちゃんってば魔法はおろか剣すら満足につかえないんだもの。せいぜい小剣、小弓ぐらいかしら、お兄ちゃんが安心してあつかえるものって。たしかに親友が心配な気持ちはとてもよくわかるわ。私だってフリッツのことは実の兄のように思ってるし、心配しないわけじゃない。でも、でも、お兄ちゃんが探しにいくことはないと思うの! 妹の私が言っちゃいけないかもしれないけど、お兄ちゃん弱いのよ!!外には魔物がいっぱいなのにどうやって身を守るつもりなの! だけど、どんなに言ったってお兄ちゃんの決心は変わらなかった。 はじめは反対してたお父さんも “うん、まあ、ナイトハルトも男の子だし、なにより神に愛された子だ。今回のことは、ビーストマスターとして成長するいい機会になるだろうしね。” なんていってあっさり折れちゃうし、そうなったらお母さんも反対はしない。 それでも私は反対した。----もちろん本当は分かっていたの。お兄ちゃんの決意は変わらないって。それにいくら弱いといっても私よりはずいぶん強いし、ゴブリンくらいならなんとかなるわ。 私はただ……お兄ちゃんにそばにいてほしかった。今まで一度も離れたことがないのに、どうして一人で行っちゃうの?私は、お兄ちゃん、すごくさみしいの……。 結局、お兄ちゃんを止めることはできなかった。旅立つ日、まだうす暗い朝もやの中を、家族3人でお兄ちゃんを村の出口まで送っていった。別れ際、お兄ちゃんは私の顔をみて思わずにが笑いをした。だって私の顔ときたら、涙でくしゃくしゃになってたんだもの。お兄ちゃんはすっと私の顔を指でぬぐうと、私をやさしく抱きよせた。 “ほら、セイラ、お前もうすぐ17になるんじゃないか。俺がいない間、泣いてないで父さんと母さんをたのむよ。大丈夫。すぐ帰ってくるさ。フリッツといっしょにね。” そういって私の顔をのぞきこむ。そしてふと思い出したように上着のポケットをさぐると、白い小さなつつみをとりだし、私にてわたした。 “少しはやいけどプレゼントだ。” つつみをひらくと、そこには淡いピンクの花がついた、可愛い髪かざりがはいっていた。 “知り合いにたのんでつくってもらったんだ。お前も少しはおしゃれをしないと、男の子にもてないと思ってね。” よけいなお世話よ、もうっ、と口では言ってみせたけど、本当は、とってもうれしかった。その証拠に、ようやく止まってた涙が、また、ポロポロあふれだしてしまったんだもの。 お兄ちゃん、私、きっと大丈夫。お兄ちゃんが帰ってくるまで、ちゃんとお父さんとお母さんを守ってみせます。だから安心して旅立ってね…… 最後にお兄ちゃんは、もう一度、私を抱きしめた。その腕は私が思っていたよりずっと力強く感じた。まるで、私の不安な心をつつみこんで、安心させるように……。そして、家族みんなと別れのキス(註・ほっぺたよ)をした後、お兄ちゃんは旅立った。だんだんと遠ざかっていく背中にむけて、私は祈りつづけた。 お兄ちゃん、どうか無事で帰ってきてね……どうか……。 「セイラ?どうかしたの?」 お母さんの声にはっとして、私は自分が少しの間ボーッとしていたことに気づいた。いけない、私ったら、つい考えこんじゃって……。ルイーズを早く入れてあげなくちゃ、きっと吉報を届けにきたはずよ。 私は、思いっきり窓をあけた。その瞬間、ルイーズが羽根をまきちらしながらとびこんできた。(ムーッ、ちょっと汚いぞ、ルイーズ!!) ルイーズはそのまま何度かはばたくと、私の肩にとまった。その足には、小さな紙切れが何だかあらあらしく結びつけてある。 「セイラ、早く手紙をとって、みせてちょうだいな」 お母さんにそう言われて、私は羽をつくろっているルイーズの足から手紙をとった。 会いたい もう一度……』 小さな、少しよごれた紙に、お兄ちゃんらしくないはしりがきのような字。いつものお兄ちゃんの手紙と違うことは、あまりにも明らかだった。そして、お兄ちゃんの身に何かがおこったとも……。 そう思った瞬間、私は目の前が真っ暗になった “もう一度……”だなんて、どうしてそんなこと……お兄ちゃん…… それじゃまるで、二度と会えないみたいだよ…… 意識のはしに、お兄ちゃんの出発の日の笑顔がよぎった。その笑顔がだんだんと薄く、弱くなって、霧のように消えていく……どうしようもない絶望感が私をのみこむ。足がガクガクとふるえて、倒れそうな身体を机に手をつくことでやっと支えた。 お母さんが何かをしきりに言っているけど、私の頭にはもう何も入らない。絶望はどんどん私を襲ってきて、私から希望をうばっていく。 お兄ちゃんが今どこにいるのか、何がおこってるのか、知りたくても、そのすべはなく……。私はただ手紙をにぎりしめ、胸にあてて祈るしかなかった。 --------神様!---------と……。 お兄ちゃんの行方がわからなくなって、二ヶ月がたった。あの日、すぐに返信の手紙をかいて、疲れているルイーズを、かわいそうだとは思ったけど、その日のうちに空へはなった。けれどそれっきり、ルイーズも戻ってこない。 私は、十七歳になった。生まれて初めての家族のそろわない誕生日は、とても悲しかった。大人になれば自然にそんな日が来るのはわかってたけど、こんな形でやって来るなんて……。 だけど、悲しんでばかりはいられない。 私は、この二ヶ月の間、毎晩お兄ちゃんの無事を祈りながら、考えた。今の私にできることは何だろう。お兄ちゃんのために、家族のために、私ができること……。 お兄ちゃんは“自分が戻るまでお父さんとお母さんを守ってほしい”って言った。初めはそれが私にできる一番のことだと思ってた。けれど、お兄ちゃん、あなたの行方がわからなくなってから、お父さんは書斎にこもってあまりでてこなくなったし、お母さんは今まで一度も失敗することのなかったパイが、つくれなくなってしまった。 私……私は、何度も夜中に目をさますようになったわ。とても恐い夢をみて……。 そして、気づいたの。待ってるだけではだめだって。……家でじっと祈っててもお兄ちゃんのいる所も、無事かどうかもわからない。 だから、私は決心した。 旅にでる。お兄ちゃんを探しに。 お父さんとお母さんはきっと、だめだって言うわ。 だけど、もう私は決めたの。ぜったいに、お兄ちゃんをみつけだしてみせる。私の目で、私の足で、ぜったいに……! 旅にでると決心したその夜、私はお父さんとお母さんに気持ちをうちあけた。 「お父さん、お母さん、私……だめって言われてもきかないから。もう決めたの。三日後に出発するつもりよ」 お父さんもお母さんもだまってきいていたけれど、私がすべてを話しおわると、ふぅっとため息をついて、お父さんが言った。 「セイラ、お父さんもお母さんも、お前がそろそろそんなことを言いだすんじゃないかと思っていたよ。なんたってお前が急に、今まで一度だってまじめにやったことのなかった魔法の勉強を熱心にはじめて、おまけに庭で何度もトマホークの的当て練習をしていたからね。私たちだってさすがに気づくさ」 違うわ、お父さん!ソーサラーの勉強はずっとまじめにやってたのよ、ただ、ちょっとだけ下手なだけなの。------と心では思ったけど口にはしなかった。そんなことよりも、お父さんとお母さんが気づいてたなんて……。 「じ……じゃあ、旅にでるの、許してくれるの?」 「もちろん……と言うわけではないけれど、セイラ、止めても行ってしまうのなら、気持ちよく行かせてあげましょうって、お父さんとお話しておいたのよ」 今度はお母さんが笑ってそう言った。 ぜったいに反対されると思ってた私は、何だか複雑な気持ちだった。だって、お兄ちゃんの時とは態度がずいぶん違うんじゃない? そんな思いが顔にでたのか、お父さんが、そのかわり、とつけ足しを言ってきた。 「いいかい?セイラ、ひとりで行かせるわけにはいかない。お前はまだ未熟だからね。本当は、ほら、フリッツの弟のロイエンタールに、一緒に行ってくれるよう頼もうと思ったんだが……」 ロ……ロイエンタールゥゥゥ?!やだっ、やだやだっ、やぁだぁ!!私、小さな頃からずーっとあいつにおっかけられて、もう、大っ嫌いなんだからぁ!フリッツの弟でなかったら、ぜーったい口もききたくないのに!! 「……彼なら戦士としても一流だし、彼自身、自分の兄を探しに出たいんじゃないかと思ったんだ。だが……ほら、セイラ、ふくれてないでききなさい。……まあ、お前はあまり彼が好きでないようだからね、ひとまずは隣町に行って傭兵をやといなさい。彼らなら腕もたつし、信用もおける。……本当なら、ナイトハルトの時も、こうしておくべきだったな……」 そう言ったお父さんの顔は、少しつらそうだった。そのお父さんの代わりにお母さんが続けて言った。 「セイラ、約束できるわね?村を出たら、寄り道しないですぐに傭兵さんがいるところへ行くのよ。出発までに紹介状を用意しておくから。ね?」 私は、とりあえずロイエンタールでなかったことにホッとして、大きくうなずいた。 「わかったわ。とっても強い傭兵さんをさがすわ」 -------こうして私の旅は、両親にはれて認められ、私は旅立つこととなった。 赤いマントに赤い靴、赤い帽子にはピンクの花。ブラウスは金髪に合わせた薄い黄色で、一見スカートのカボチャパンツはリボンとおそろいのワインレッド。 出発前夜、お母さんがこの一式とさらに5着ほど私の部屋にもってきた。 「お店にはかわいいのがないのよ。なんだか灰色や黒の布を四角くぬっただけみたいなのばかり。だから、お母さん徹夜してこれだけつくったの。たりないかしら」 そう言いながら、楽しそうに私に合わせていたのを、少し暗い森の中を歩きながら思い出し、あらためて自分の服をみた。 「うん、ちょっとハデだけど、動きやすくて素敵だわ」 村を出発して2日目、この森を抜ければ隣町はすぐそこだ。初めての野宿はちょっとこわかったけど、その割によく眠れたみたいで足どりは軽い。赤いマントをひらひらさせながら、森のなかの一本道を、私は、鼻歌まじりでのん気に進んでいった。 「フン、フフン……♪森はつづく〜あのお城ま〜で……。あーあ、ちょっと疲れちゃった。どこかで休んでおひるでも食べようかな……」 あと少しで町はみえてくるはずなんだけど、朝からずっと歩きつづけてクタクタの私は、森を少し入ったところにある湖のほとりで一休みすることにした。だけどこの後すぐにこの選択を後悔することになるなんて……。 湖は青くすんで、とりまく木々の葉やほとりに咲く花を、美しく水面にうつしだしていた。 私は、しばらく湖にみとれてたけど、ふと、淡いピンクの花が咲いている一角が目についた。 ------あの花……なんて花かしら……お兄ちゃんのくれた髪飾りの花によく似てる……。 なんだか、その名も知らぬ花がとても愛おしくなって、私は、そこで休むことに決めた。 花をふまないようゆっくりと座って、ふっと息をつく。そしてゆっくりと大気を吸うと、ほのかに甘い花の香りが、ふわりと身体に入ってきた。それだけで心がやすらいで、おひるはやめてこのまま少し眠ろうか……と思ったその時、後ろの草むらがガサガサッとなった。 「な、なに?!」 驚いてふりむいたその先にいたものは……。 「グル……グルグル……ウーーー……」 おなかをすかせて目が血走った、ゴブリンの群れだった。1ぴき、2ひき、3びき……あぁ、数えてるヒマなんかない。だって彼らはどうやら私を……食、食べたいみたいだもの……!! 私はおそるおそる立ちあがり、トマホークをギュッと握りしめた。心臓がドクドクとなっている。 ------どうしようっ。お、お話しても通じない……よね……。あ、ああっ、近づいてくるわぁ!!多勢に無勢……逃げるが勝ちよ! じりじりっと、私は後ろにさがった。1歩、2歩……。 ------ピチャン……------- そこまでで私の足はとまった。後ろは湖……。水にはまったらもうぜったい逃げられない。だって私……カナヅチなんだもの!! どうしよう、どうしよう、どうしようーーーーーーーっ。 ゴブリン達がどんどん近づいてくる。あまりのピンチに私はプツッときれてしまった。えーい、もうやっちゃえ!! 「てぇぇぇぇぃっ!」 私は、いまにもとびかかってきそうな一番近いゴブリン1にむけて、おもいっきりトマホークをなげつけた。トマホークはかわいく結んだリボンをひらりとながしながら回転し、みごとにゴブリン1に顔にプスッ(いや、ドスッかな)とささった。あわれな彼は顔にトマホークをつきさしたまま、フギャーッと転がり、うなっている。その顔からはドロリとした体液があふれだして……。 「う……き、きもちわるーい……はきそう……」 でも、そんなことよりも、トマホークをなげたものの、あれは取りに行かなきゃ戻ってこないということのほうがよっぽど重大な問題だった。 仲間がゴロゴロ転がりまわるのをみて、他のゴブリン達は怒りゲージがあがったらしく、殺気が高まっている。武器のない私はもう完全に袋のねずみ。 何とかしなくちゃ、何とか……。 「そ、そうだ!魔法!私は魔法使いなんだから!!」 私はいそいで呪文を唱えはじめた。うけたものを眠りへいざなう魔法。指にはめた魔法の指輪がキラッと光る。 「-------スリープクラウドー!!」 指輪をゴブリン達にむけて、おもいきり叫んだ。 ……だけど、魔法は発動しなかった。指輪からは、プスッというかすかな音がもれただけ。 「う……うそ、失敗……」 どうやら呪文をまちがえたらしい。ゴブリン達がニヤリと笑ったようにみえる。 今、彼らには、私がさながらローストチキンにでも見えるのかな。 「いや、いや、いやーーーっ、誰かたすけてーーー!」 私は、ギュッと目をつぶって叫んだ。ゴブリンの臭い息が近づいてくる。 もうダメだと思ったその時、ザシュッという音とともに、ゴブリンの悲鳴がひびきわたった。 「……?」 おそるおそる目をあけると、そこには鎧が……いや、鎧を付けた、人間の広い背中があった。 見上げると、それは大きな男の人だった。手には、たった今、ゴブリンを切り倒したらしい大剣を握り、その人は、私をかばうように私とゴブリン達の間に立っている。 誰だろう……、顔はよく見えない。 「グルグルグル……フギーーーーッ!!」 新手の登場に、ゴブリン達は少し驚いていたが、すぐにターゲットをかえ、こんどはその人にとびかかってきた。 あぁっ、ひどいわゴブリン達!!そんな全員でくることないでしょっ!!順番にきなさいよっ!だ、大丈夫かな、この人……。 「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」 私の心配はどうやら無用だったらしい。その人は大きな、地響きのしそうなおたけびをあげると、足や手にしがみつくゴブリンをなぎ払い、大剣をぶんっとふって、次々と彼らをたたきつぶしていった。 それはもう、おもわず目をおおいたくなるような光景だったけど、私はついつい指のすき間からその様をのぞいてしまった。ううーん……すごい……。 ものの5分もたたないうちに、20匹近くもいたゴブリン達は、ほぼ息絶えていた。 ふうっ、と大きく息をつくと、その人はそのまま倒れたゴブリン達の前にいき、一匹ずつ息のないことを確認してまわった。そのうちの一匹は、私のトマホークがつきささったままだったんだけど、彼はそのトマホークを死体からズズッと抜きとり、刃からしたたる体液を丁寧に布でふきとった。その横顔を、私はじっと見つめていた。 太い眉に、少し切れ長の目。短くかった髪。一見、恐そうだけど、でも、瞳にはどこか優しさをたたえている……。 あっ、お礼、言わなきゃ。トマホークまで、きれいにしてくれてるんだもの。 「あの……」 そう私が口をひらきかけた時、フッと彼が顔をあげ、こちらを見た。その瞬間、彼は大きく目をみひらいた。まるで、何かに驚いたように。 な……なに?なにかしら……私、どこか変? だけど、彼はすぐに表情をやわらげ、私にあゆみよってきた。 「どこか……ケガは?」 バリトンの響きがここちよい。今までの私のまわりには、ないタイプの声。 「あ、ありがとうございます。大丈夫です、ほら」 私は、どこもケガのないことを示すのに、少しとびはねてみた。 それをみて、彼はうなづいた。その瞳がわずかに細められ、眉根が苦しげによせられる。 さっきの表情といい、どうしたんだろう、この人……。 私の不思議そうな顔に気づいたのか、彼は、気にしないでくれと一言いい、それより、と、私の名前をたずねてきた。そう言えば、お互い名前も知らないんだ。 「はじめまして、セイラ・グリーンと言います。どうぞよろしく。あなたは?」 そう言って私は、握手を求めて手をさしだした。彼は、私の手をじっとみて、ちょっとためらったけど(何故?)、右手をさしだし、握手をした。 「俺は……ゴードン・ゴート。よろしく」 ゴードン・ゴートさん……大きくてゴツゴツした手。だけど、とてもあったかい。 その後、彼は私にトマホークを返してくれた。“すばらしい命中だ”と一言そえて。ふふっ、練習したかいがあったわ。 「だが、無茶はいけないな。一体どうしてこんな森の中に、君のようなお嬢さんが一人で入ったのかな」 きかれて私は、いきさつを説明した。お兄ちゃんが行方不明になったことや、旅に出る決意をしたこと、ついでに、弱いけど一応、自分がソーサラーだってことも。 ゴードンさんはだまって私の話をきいてくれた。でも、気のせいかしら……私が“お兄ちゃん”と口にするたび、ゴードンさんの顔がつらそうにゆがんで見える。気になって私が話をとめると、何でもないという顔で“どうした?続きを”と言って話の先をうながした。 「……で、とりあえず今は、隣町へむかっているところなんです」 ひととおり話しおわると、今度は私がゴードンさんにたずねた。 「ゴードンさんは、どうしてここを歩いてらしたんですか?」 「俺は……旅の途中、たまたま通りかかっただけだ。そして悲鳴がきこえたから、かけつけた。……それだけだ」 何かしら?何だかひっかかる言い方……。 「それより、隣町へは一体何をしにいくんだ。あそこはたしかに大きな町で、情報はあふれているが、その分治安もよいとは言えない。女の子一人では危険だ」 話をそらすような言い方が気になるけど、とりあえず私は、質問に答えた。 「私、これから一緒に旅をしてもらう傭兵さんを探しに行くんです」 「……ヨーヘイサン?……!おおっ、傭兵のことか」 ふむ、と得心のいった顔でゴードンさんがうなづく。 「……だが、あそこには、そんなに腕のたつ奴はいない。どこか、他をあたった方がいいと思うが……」 そこまで言って、ゴードンさんはだまってしまった。どうやら、私の傭兵さん探しについて考えてくれてるらしい。意外とお人好しなのね。 こんな人が一緒に旅をしてくれると心強いんだけど……。そういえば、ゴードンさんって何をなさってる方なのかしら。こんなに強いんだから、もしかしたら、傭兵さん……だったりして。 「あの!もしかしてゴードンさんは傭兵さんではありませんか?」 「え?あ、あぁ、そう……だな。まぁ、路銀稼ぎにやるときもあるが……」 やっぱりっ!!そうよ、ゴードンさんにお願いすればいいんだわ!!紹介状を用意してくれたお父さんたちには悪いけど、決めた! 「ゴードンさん、私の傭兵さんになってください!!」 私は、おもいきってたのんだ。それをきいてゴードンさんはとっても驚いたみたい。だけど、私の必死な目を見て、力が抜けたようにふうっと大きく息をつき、 「------のりかかった舟……俺でよければ力になろう、お嬢さん」 と言った。やったぁ!ゴードンさんがついてれば、暗い森だって平気で歩けるわ!(もともと平気に歩いてた気もするけど……) その後、私はかばんから傭兵さん用の資金袋をとりだし、ゴードンさんに渡した。お父さんからもらった500G。だけど、ゴードンさんはなぜかうけとろうとしない。どうしてかしら、傭兵さんなのに……。それでも私が強引に手渡すと、それならば、と言い、袋の中から金貨を一枚とりだした。 「とりあえず、これだけもらっておこう。今の俺には……これで十分だ」 そういって、金貨をギュッと握る。その瞳が暗くかげった。 どういうことかしら……。やっぱりゴードンさん、変だわ……。時々、とても暗い顔をする……。 だけど、その理由は、きいてはいけない気がした。まぁ、人間だもの、秘密ごとの一つや二つ、あたりまえよね。 私はこの時、彼のかかえている大きなものについて、まったく知らなかったんだけど、それを知るのはまだまだずーっと先のこと。 「……俺は、ひきうけたからには、君……いや、あなたのことは、命をかけて必ず守る。……まかせていただけますかな?」 自信にみちたゴードンさんの言葉。 「もちろんです。よろしくお願いしますね」 答えて、ニッコリ笑うと、ゴードンさんもかすかに微笑んだ。 「では、行きましょうか、------セイラお嬢様」 こうして、私とゴードンさんは共に旅立った。 行くあても定まらず、先のみえない長い道。 でも、私は恐くない。何があってもきっと平気。 だって予感がするんだもの。この先に、何かが、誰かが私を待っている。それはきっとかけがえのない、大切なもの……。 大きな未来にむかって、私は今、歩き始めた。 --------で、その後、ロックやエドさん(エドガー)、セラちゃんに出会ったわけなんだけど……。 「ねぇ、セイラ、あの二人、ホモなのよホ・モ☆」 「……セラちゃん、それってロックとエドさん?」 「もーちろん(コーックリと首を大きく縦にふる)!」 「こらーーっ!!セラ、何言ってんだ!」 「まぁまぁ、照れることはないだろう?ロック……」 「やめんか、エドガー!うわっ、ひっつくな!!」 「キャー(はぁと)ほらほらっ、ね、セイラ!」 「うぉぉ、お嬢様!見てはなりませんぞ!」 「ゴットンさん、もう見ちゃいました」 というような、とっても素敵な仲間たち。 お父さん、お母さん、待っててね。私、この人達と一緒に、必ずお兄ちゃんを探し出すからね。 |